スクランブル交差点を、もはや老人とも言える痩身の大男が、スーツ姿で左手にビジネスバッグを提げ右足をわずかに引きずるようにしながら、漂うように歩いていた。
男を取り囲む人々の大群は、皆一様に前かがみにまるで力ない兵隊の行進の様だった。
「Xで『トレパク』がトレンド入りして、騒ぎが大きくなるにつれ、連中にとってトレパクが真実かどうかなんて、どうでもよくなっていったと思うんです。それよりも、どうすれば獲物を……さやかを地べたに這いずり回らせることができるか。どうすれば、より効果的にさやかのメンタルを破壊することができるか……奴らは飢えた犬が骨付き肉にむしゃぶりつくように、そのゲームに熱中していった」(本文より)
遠い昔の話ではないが、とはいえそう最近の出来事でもない。
作家、小張偉臣は山奥のこぢんまりとした宿で暮らしていた。
そこへ作家のファンだという娘が現れて――。
人類は生命体が機能を亡くした場合、肉体と心思に分かれる。
肉体は機能不全となり荼毘に付され、骨となりいずれは土に返る。