避雷針売りの男から仔犬を買った女教師の心の暗闘――「秋の犬」。
幼い頃、友を見殺しにした記憶をもつ男の旅路――「灯台への道」。
病床の友がヴェンセスラウ・デ・モラエスに求めたものは何か――「モラエス通りで」。
全3編を所収した本格短編小説集。
昭和19年、サイパンに降り立った南雲忠一中将。
サイパンの海軍専用の料亭で働く芸者、お駒。
日米軍のあいだには圧倒的な兵力の差があった。資材不足で無防備な日本軍に対し、制空・制海権を掌握している完全な米軍。戦局は悪化の一途をたどりサイパン島は放棄され、「絶対国防圏」は崩壊した。
もちろん、生きているということはひとつの悲しみである。
手品師、落語家、老詩人、
水商売、自殺した子と父……
舞台は尽きることなくめまぐるしく変わり、
それぞれが「何か」と隣り合わせに過ごしている。
人は誰しも人生の初期に迷いや未熟さから重大な誤りを犯し、のちの人生に取り返しのつかない禍根を残すことがある。
成長した男女二人の主人公が、失われた過去をとり戻すために、時空を越えて真実を見極める旅に出る。